読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

良い歌詞:ASKAと曽我部恵一

ASKA


95年に出たアルバムのリード曲。ASKAの一人称「俺」の歌は本当にわくわくする。
 
暗示的、点描的に書かれた歌詞。
レトリック満載なうえ、各段落の文のつながりが薄いように見えるが、
歌詞全体を見渡すと、ASKA流の男のやるせなさの美学が浮かび上がってくる。
またこの歌詞には、フィギュアスケートでルールに沿って一つ一つ技を披露していくのと同じように、
段落ごとにかっこいい言葉遊びを一つ一つ繰り出している面白さがある。
 

88年3月に出たアルバムの曲だから、ASKAが30歳目前の頃に書かれた歌詞だろう(作詞の背景)。
事情説明のていでストレートな表現で書かれた、ASKAにしては珍しいスタイルの歌詞。
一見するとミスチル秋元康の歌詞に似ているかもしれないが、Bメロの中に
「誰が犯人かぐらい 二週先まで読んでる」と、正しい日本語に縛られない粋なフレーズが出てくる。
秋元康では逆立ちしても出てこない表現だろう。
 

素敵なフレーズを多く含んだ歌詞だが、今回はサビ頭の「今も遠くも」に注目したい。
「遠く」とは、時間のことかもしれないし、場所のことかもしれない。その両方かもしれない。
とは言え、「今」と対比的に並べられている点から、ひとまず時間のことだと考えよう。
 
「遠く」の時間というと、多くの人が最初に未来を想像すると思うが、
やがて過去も遠い時間であることに気が付くだろう。
正反対の過去と未来でさえ、「遠く」という一つの短い言葉で同時に言い表せるのだ。
 

曽我部恵一

砂漠
作詞:曽我部恵一 作曲:曽我部恵一 歌:曽我部恵一ランデヴーバンド
 
MP3
 
真夜中までの距離 3000マイル
ずっと遠くの 遥かな街
星のワルツの調べ ずっと昔のメロディ
 
ねぇ ぼくの胸を裂いて
赤いキャンディをとりだして
そのあとぼくを抱いて そのあとぼくを抱いて
 
蜃気楼をめざす ぼくはキャラバン
月の砂漠を行く
 
ガードレール突き破ったあの車
いつものテープを流してた
ロックンロールのリズム ずっと昔のメロディ
 
ねぇあの狂った月に 水は流れているの?
ねぇあの狂った月は ただの光る砂漠
 
バスルームに転がった 赤い愛のキャンディ
おかしな結末だね
 
ル ルルル……

 
奇妙な夜の出来事を描くことで、間接的に月の神秘的な風情を表現している。
大衆的な作詞家には出せない奥ゆかしさであり、作詞はセンスと教養であることを思い知らされる。
 
はっきり語らないことで、全てを語らないことで、豊かな行間が生まれる。
逆に、詩的な表現を使っていながら、意味をはっきり伝えたがる歌詞ほど野暮なものはない。
 

星のレストラン
作詞:曽我部恵一 作曲:曽我部恵一 歌:サニーデイサービス
 
やさしい嘘を脱ぎ捨てて待ち合わせ
行方不明の子供たちばかりの街で
まるで生まれて来なかったようなふりして
噂どおりの重い扉を押しましょう
 
星のレストランで 今夜 星のレストランで 今夜
豚足 おいなり 玉子焼き ポテト あたりめ 醤油ラーメン
 
空に光るは遠い昔のサテライト
ビルの街も静かに明かりおとします
まるで家のない野良猫のように
音も立てず忍び足でたどり着く
 
星のレストランへ 今夜 星のレストランへ 今夜
フライドチキンとポップコーン 焼き鳥 餃子 スープカレー
星のレストランで 今夜 星のレストランで 今夜
愛をさましてはあたためて
ぼくらはお腹いっぱいになる
 
星のレストランで 今夜 星のレストランで 今夜
カルボナーラ ペペロンチーノ きんぴら ハムカツ 八宝菜
かぼちゃのコロッケ 釜揚げうどん お好み 枝豆 チリビーンズ
杏仁豆腐にスポンジケーキ コーヒー 紅茶 コーラフロート

 
アコーディオンやピアノが賑やかに奏でられるヨーロッパ民族風の曲。
『星を見たかい』を思い出させる物悲しいメロディに、どこかミステリアスな趣も加わる。
 
幻想世界のレストラン。そのメニューには不思議な架空の料理が並ぶのかと思いきや、
安っぽいフードコート料理が次々と出てくる。この裏切り方が、すごく気持ちいい。
 

愛と苦しみでいっぱい
作詞:曽我部恵一 作曲:曽我部恵一 歌:曽我部恵一

ぼくらはいつだって 愛と苦しみでいっぱい
気付いて 傷ついて 喜びと悲しみでいっぱい
 
そしてあの木がザッと音を立てて揺れたら あたたかい雨が降ってくる合図
ならば ぼくら部屋を出て 街を抜けて丘へ行こう 高台に立って濡れながら歌おう
春の終わり 滑走路 どこへ続く 颯爽と 冬の日の残像と 夏が語る回想を
JAZZのピアノみたく 転がるビートに託そう こぼれ落ちる奇跡のSWINGに乗って踊ろう
 
ぼくらはいつだって 愛と苦しみでいっぱい
気付いて 傷ついて 喜びと悲しみでいっぱい
 
青い夜があった 何かがそこで生まれて死んだ 水銀灯に照らされ 魂が揺れてた
キスとミスを繰り返す 胸の痛みぶり返す どこへ行った純粋さ それはただの噴水さ
あのあたたかい雨が全てきれいに流す きみのことも ぼくのことも 世界中のことも
そしたら短い間 キラキラしたものに覆われる 夢かもしれないならば くちづけして確かめる
 
ぼくらはいつだって 愛と苦しみでいっぱい
気付いて 傷ついて 喜びと悲しみでいっぱい

 
Aメロの歌詞はラップの節回しで、時おり韻を踏みながら歌われる。
ロマンと葛藤の日々が、まとまりなく、あふれて転がるように描かれていく。
それが「愛と苦しみでいっぱい」という結びの言葉を、大きな実感をもって響かせている。
詩的表現で綴るラップというアプローチ。若いソングライターたちもどんどん挑戦してほしい。
 
 
※3/23 加筆修正