テノール!人生はハーモニー

 
 
初日に鑑賞。
ミーガンの客が多かったので本作に変更したが、これが正解だった。
 
スラムの住人でありながら大学で会計を学ぶ主人公と、元家出少女の成り上がりオペラ教師。
境界人の二人が社会階層に攪乱をもたらす。
 
序盤、主人公が寿司の宅配でオペラハウスを訪ねるシーンで、
実物の主人公と鏡に映る主人公を混同させるように映している。
このこれ見よがしな演出は、実物の主人公と鏡に映る主人公を通して、
人間がもう一人の自分、マルチな可能性を持っていることを暗示するものだろう。
また、主人公が館内の階段を静かに登っていったのに対して、バイタリティにあふれ、
場違いなこともお構いなしに乱暴に駆け抜けていく兄や仲間たちが可笑しかった。
境界人と、純然たるスラム住民との違いが描かれているわけだ。
 
主人公がオペラ教師に見染められ、オペラ教室に受け入れられる過程は、
穿った見方をすれば、ハイカルチャー側がロウブロウ側に承認を与える嫌味な形になる。
私はそのことを引きずりながら映画を見ていたが、
最後にロウブロウ側がハイカルチャーを承認する様が描かれて一件落着した。
映画に手のひらで踊らされてしまった。
 
上流ヒロインの短所や、ライバルとの勝負の行方などの伏線を回収せず、
兄や仲間たちがはしゃいでいるところでエンドロール。これは粋ですよ。
監督の勘の良さを感じました。