あのこと


 
初日に鑑賞。
記憶が曖昧なので、事実関係の間違いがあったらすいません。
 
大学の講義中、喫煙学生がぼやけた背景の中に映っている場面が何度か出てくる。
たいていの鑑賞者は喫煙学生に目が行くだろうが、これはつまりそういう演出なのだ。
中盤あたりで講師がアンヌに詰め寄る場面があるが、ここでも喫煙学生らが
ぼやけた背景の中に映っている。一本調子な画にならないよう、
目を引く背景を置いて鑑賞者の焦点を分散させているのではないか。
 
アンヌがマキシムを訪ねる場面。
話す側にフォーカスが当てられ、聞く側はぼかされている会話が交わされる。
そして会話を打ち切ったマキシムが左にフレームアウトするが、
座っているアンヌの姿がぼやけたままカットチェンジする。
望まぬ妊娠問題の実相(女性だけが深刻な苦境に陥る)を効果的に表現するため、
撮影と編集でちょっとした違和感による余韻を作っているのではないか。
 
アンヌが手術費用を稼ぐためにフリーマーケットを開く場面。
二冊で5フランの本を買い、正面から映っている女性客と、
50フランのネックレスを買い、後ろ姿だけが映る女性客が出てくる。
椅子に座っているアンヌが女性客の腹部と向き合う意味深な場面だが、
これは視点(正面と後ろ姿)を変えることでシーンの緊張を保っているのかもしれないし、
高いものを買った客が余計な印象を残さないよう、顔を映さないようにしたのかもしれない。
 
今思いつくのはこれぐらいだが、こうした作為の数々から、
隅々まで神経を張って作られた映画であることが伺える。
金獅子賞に輝くのも納得です。